読書 陽だまりの彼女
小さい頃近所に仲が良かった子がいて良く遊んでいたけど小学校に入って友達が増えたせいかその子とは疎遠になってしまった。もしそうならずにつき合いが続いていたら今頃どうなっていただろう。
陽だまりの彼女(著者:越谷オサム)は、社会人になった主人公は中学生の時ある事件をきっかけに面倒をみることになった同級生の「真緒」という娘がいて、10年後にバリバリのキャリアウーマンになった彼女と仕事上のクライアントとして再会するところから話が始まる。
勉強の面倒を見ていた頭の悪かった彼女は今やクライアントで頭も切れる。さらに自分のことを覚えていてくれて綺麗になった彼女と仕事をやりとりするうちにデートに誘ってしまう。主人公は中学生の時に真緒と話をするのが恥ずかしてくぶっきらぼうな態度をとってしまったことに後悔を覚えつつ彼女に惹かれていく。
「この十年は、あんまり楽しくはなかった」ちょっと、声がう上ずってしまった。「やっぱり、分数の割り算を教える相手がいなかったから」
真緒が、自分の顔を指さしている。
頷くと、真緒は「いやー、恐縮です」と言って体をくねらせた。
十年も凍結されていた思いが、僕の中でゆっくりと溶けはじめていた。*1
(空白の10年間で彼女と一緒にいなかったことを後悔していますという)主人公の告白に対して真緒の等身大のリアクション。ここでぐっと親近感を覚える。
見る予定だった映画をやめて別のタイトルを選んだり、ベッドで居眠りするはずが急に畳がいいと言い出したりして急に気まぐれを起こす真緒。そんな真緒に腹を立てる時もあるけど甘えられるとつい許してしまう。彼女の里親や学生時代の友人と話をするうちに少しずつ彼女との空白の10年に触れていく。共同生活のなかで主人公はますます真緒を好きになっていく。
だけど、銀行の預金を全額下したり、体調を崩したのに病院には行かないと言い張る彼女の不審な行動に主人公は不安を覚える。もしかしたら真緒が自分の前からいなくなってしまうのではないかという主人公の気持ちが伝わってくる。今の真緒との生活に悦びを覚える主人公の気持ちが伝わってくるからいっそうそう思える。
真緒はひどく青ざめていた。
きっとまだ、何か隠しているはずだ。だが、いま厳しく追及しようとすれば、僕はまた真緒を怒鳴りつけてしまうかもしれない。
疑問を胸の奥に押し込め、僕はそっと尋ねた。
「本当にそのお金、預けるんだな?」
「うん」
真緒は頷き、洟を啜った。*2
真緒が大切だから彼女を信用して追い詰めない主人公。心が広い。人生を伴にするというのはこういうことなのかもしれない。
疲れている真緒にプレゼントして元気づけようとする主人公。その瞬間幸せを感じる二人だけど徐々に真緒の元気がなくなっていく。幸せなはずなのにその先の展開に不安を覚える。瞬間瞬間を精一杯生きようとする真緒とそれを見守ることしかできない主人公。読んでいて胸が締め付けられる。久しぶりに読書でじんわりきた。
ちなみにAmazonのコメントは賛否両論。というか否定的なコメントが多かった。私は二人のつき合いや共同生活の中から悦びや悲しみを見つけ出していくプロセスを楽しめる人ならこの本はOKだと思う。