ポコあポコ

タイトルは学生時代に読んでいた小道迷子さんの競馬の4コマまんがから頂きました。登場するゆるくて憎めないキャラクターが良いです。

読書感想 おもいでエマノン

 ジャンルとしてはSF。親から受け継いだ記憶を自分の記憶ととともに子供に引き継ぐ。そうやって地球に生命が発生してから30億年分の記憶を抱えながら生き続ける少女エマノンを軸に物語が展開していく短編集。まだ3話目の途中だけど個人の力だけではどうにならないニヒリズムのようなものが心に優しくささる。

 とある青年が船旅の先でエマノンと出会うシーンがあって、2人は仲良くなるけど次の朝彼女はメモだけ残して忽然と消えてしまう。13年後にたまたま駅のホームで彼女を見つけた青年はエマノンに、

「・・・・・・あれから、ぼくは君を探してまわったんだ。船の中はくまなく探したつもりだ。だから、今でも、君のメモは、ほらこの定期入れに記念に持っている。でも、あの時僕に話したのは全部本当のことだったんだね」 

おもいでエマノン 梶尾真治

 好きになった女の子のメモをずっと定期入れに残している。なんて健気。エマノンは好きだったと答えるけど青年は自分の前から彼女が去った理由がわからない。それに対して彼女は、

「数時間一緒にいても、数十年間一緒にいても、好きだったというおもいでは私にとっては同じことなんだもの」

おもいでエマノン 梶尾真治

30億年生き続けてきたエマノンにとって恋は数時間でも数十年でも一瞬。(きっと今まで何度とそんな経験をしてきているのだろうけど)いつか終ることが分かっている。そんなことをサラリと言えてしまう彼女はとても達観していてとても切ない。